Neva Eva

懐かしき日々 01
 魔法使いの、ライセンス。

 実は、そんなものがある。
 一応、オレも持ってるんだけどね? 銀色の薄いプレート状のそれには、魔法使い自身の名前と『学院』の正式名称しか刻印されていない。魔法使いの個人情報とかそういうのに関しては、プレートの中に構成として織り込まれている。基本的にそれは特定の魔法を使わなきゃ読み取れないから、一般の人間から見るとただの銀色の板でしかなかったりするんだけど…………いや、まぁ、とりあえずその辺は脇に置いておこう、脇に。
 うん、今何が問題かというとだ。

 ズバリ、有効期限。

 …………一応、オレのライセンスはこうして手元にあるワケだけど。

「……ライセンスの有効期限って、何年でしたっけ?」
「五年ですよぅ」

 にっこりすっぱりきっぱりと答えてくれた受付のお姉さん、どうもありがとうございます。


 確実に二十五年以上前に切れてます。オレのライセンス。








 うん、予測はしてた。予測は。
 こうなるんじゃないかなー……って、予測はしてたとも。

「はい、それじゃ再試験の申請、確かに受理致しましたぁ」

 だから、にっこりと笑顔のステキな受付のお姉さんに朗らかな口調でそう言われて、よろしくお願いします、と素直に頭を下げる。お姉さんへと手渡した書類の代わりにオレの手の中に残されたのは、受験票…………みたいなものだ。

 現在の状況 ―――― 言ってみれば、何のことはない。懸念が現実のものになっただけという話だ。
 オレのライセンスがものの見事に期限切れになってただけだ……!

 よくよく考えてみなくても、当たり前と言えば当たり前なんだよね。オレがライセンス貰ったの、“大崩壊”の三年ぐらい前だもん。つまり、ざっと三十三年前。それでライセンスがまだ生きてると思う方がおかしい。

 いや、ライセンスがなくても『学院』に入れないことはないんだけどね? でもそれだと『学院』内部に滞在はできないし、行動できる範囲に制限が設けられる。来る度にいちいち許可を貰って『学院』の中に入るのも面倒だし、あんまり良いことがない。
 だったらどうするのが一番いいかなー、と考えて…………その場でライセンスの再発行手続きを取ったワケです。いや、正確には再発行ってか、再発行のための再試験の手続き……。

 うん、予測はしてた。……してたんだって。
 それでもやっぱりちょっと悲しくなったというか…………うん、切ない。ライセンス一応あるのに。オレ的に五年経ってないのに。何が悲しくて再試験とか……!

 魔法使いの、ライセンス。
 オレたちがライセンスと呼ぶそれは、銀色のプレート状をしている。
 基本的にこれは、『学院』で一定期間学び、なおかつ卒業試験に合格した者に発行されるものだ。ごく稀に、独学でとか誰かに師事するとかして魔法を学んだ人間が、試験だけ受けに来て発行して貰うこともあるみたいだけど、それは比率としてはとても低い。

 シンプルな、装飾品にもならないようなものだけど、これがあるのとないのとでは魔法使いとしての信用度に大きく差がつく。まぁ、身分証明みたいなものともいうかな。
 ちなみにコレ、内部に特殊な魔法構成を織り込まれるんで、並大抵の人間では複製不可だったりする。むしろ、できたら天才、みたいな? 売り払ったら結構な値段が付くよー、と過去にいらん知識を披露してくれたのはセレだ。売ってどうする。

 なければ即魔法が使えない、ってものでもないけど、正式な意味で『魔法使い』とは名乗れない。ライセンスを持っていない人間は、魔法絡みの仕事を請けちゃいけないってことにもなってる。

 で、アレだ。
 このライセンス、有効期限付き、というビミョーに嫌ぁなシロモノだったりするわけですよ。
 しかも有効期限が切れれば、ライセンスそのものが跡形も無く消失する。例えとかじゃなくて、ホントに消える。そんな魔法構成がプレートに織り込まれているらしい。詳しく調べたことないから判んないけど。

 昔、“藍の宮”のヤツがその辺調べようとして、ウッカリと構成を発動させてライセンス消失させてたこともあったなぁ……。結局そいつは、再試験なんぞを受けてライセンスを再発行して貰ってた。今考えてもアホだ。
 …………いや、それはともかく。何か話が脱線した。

 ライセンスの有効期限を偽ることは難しい。さっきも言ったけど、有効期限が切れればライセンスそのものが消えちゃうからね。
 オレのライセンスは今まだ手元にあるけど、有効期限は完全に切れてる状態…………これは完璧イレギュラーだろうなぁ……。

 オレが眠ってた場所、フィルが作り出した空間、“光の洞”。
 “光の洞”の中では、時間はほとんど止まってるようなものだから、変な言い方だけどライセンスの体感時間的には五年経ってない、ってことになるんだろう。だからまだ消えてない。……実際は三十年とか経ってるんだけどね! ちょっとどころか大幅に有効期限をオーバーしちゃってたりするんだけどね!?
 ……いや違う、また話が逸れた。

 ライセンスを継続して所持するためには、期限が切れる前に『学院』で更新する必要がある。更新、ってか手っ取り早く実力を試されるわけですが。
 つまり、テスト。要するに更新ってのは、実践的なテストを受けて、その人間が『魔法使い』を名乗るのに相応しいかどうかを見極める場だ。一定の基準に満たない者、もしくは思想や行動に問題のある者は即座にプレートを没収されるという、なかなかに厳しいシロモノだったりする。
 つまり、使えない人間も問題児もいらないということか? ―――― と、過去にシンプルかつ痛いコメントを繰り出したのはフィルだ。……うん、ソレ、思っても言わない方がいいかも。

 えぇと、話が長くなったけど。
 要するに、穏便に『学院』に入るためには再試験受けてライセンス発行して貰うのが手っ取り早いかなー、と。ぶっちゃけて言えばそれだけのハナシです。ハイ。

「んで、オレはどこに行けばいいんでしょーか?」
「えぇと……『学院』の内部構造はお判りですかぁ?」
「……多分?」

 我ながら、ビミョーな返答なうえに半疑問形。
 し、仕方ないじゃん!オレの知ってる『学院』って、三十年前のだもん! 増改築とかされてたら太刀打ちできないし!

「それでしたらぁ、まずは白の宮の中央棟へどうぞ。他の受験者の方もそちらにいらっしゃいますので~」

 白の宮白の宮……、えぇっと……『学院』の西側だったっけ?? ……と、内部地図を脳内で一生懸命に広げてたオレに、受付のお姉さんは丁寧に説明を続けた。

「再試験を受ける方は、まず三日間の補講を受けて頂く事になりますぅ。補講の最終日に試験がありますので、それをパスされた方にのみライセンスを再発行させて頂きます。頑張ってくださいね~!」

 ちょうど今日から補講が始まるんですよー、運が良かったですねぇ! と、にこやかなお姉さんの声。ありがとうございます。でもその優しさが逆にちょっと切ないです。オレの運がホントに良かったら、そもそも再試験受けてないと思うんだ。
 ライセンスが切れてるってホントに悲しいな……。あ、何か寂しくなってきたかも。

 ……って、ここで悩んでも仕方ない。行動あるのみ、ってことで行きますかー、と気持ちを切り替えてオレは歩き始めた。

 あ、ちなみにフィルとセレは今“晶石”の中に戻ってもらってる。
 いや、だって……ね? 『学院』の中って、使い魔の呼び出し不可なんだもん。そういう規則があるんだもん。「許可無く使い魔を呼び出すことを禁ず」って。
 昔、学院総代のじーちゃんとハクレン爺の連名でその許可とやらを貰ったことはあるけどさ、それがまだ有効かどうかなんて判んないし、一応安全策をってことで“晶石”に戻ってもらった。戻す時、二人ともすんごい不満そうなカオしてたなぁ……。不満そう、ってか、心配そう? ……あれ?
 そして安全策と言いながらも、オレの安全を考えるならむしろいてもらった方が良かったんじゃないかとか、そんなことは考えません。……考えないよ!

 要は気を付ければいいんだし! ……と思った3秒後、何もないところでビタンッ! と転びました。容赦なく顔を打ちました。早速ダメかもしれません。

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