「―――― すまん」
真っ直ぐに瞳を見てはっきりきっぱりいっそ潔く。
ハクレン爺は謝罪の言葉を口にした。
…………潔ければいいってモンじゃないぞ、じーさん。
「……で? 本っ気でセレの石はここにないの?」
「あぁ」
即答だった。
僅かな惑いすらもない、簡潔な答えだった。……だから潔ければいいってモンじゃないっての。
「どこにあるかは判っておるんだがの」
顎鬚を撫でながらハクレン爺が言う。盗賊に殴られた頬に、大きな絆創膏を貼り付けたその状態はなかなかに痛々しいものがあったけれどもだがしかし。
……いいけどさ? 後ろ……オレの真後ろからすんごい冷気出してるヤツがいるの、気付いてモノ言ってる?
せ、背中が寒い。寒いってか凍る。
「どういうことだ?」
超重低音でもって問い掛けたフィルのカオは、とてつもなく怖かった ―― と、後にシロちゃんは語った。……トラウマにならないといいね。心の中でちょっと願う。
あぁ、判りやすく怒っていらっしゃる、とフィルを見ながらオレは思った。
何ていうか、なー……。基本的に怒りの沸点が驚くほど高いところにあるフィルを、こうまで怒らせるってのはある意味偉業だ。
「答えろ、ハクレン」
…………頑張れ、ハクレン爺。
今のフィルに真正面から見据えられながら口を開くってのは、かなりの胆力が必要となるだろう。
でもオレ助けないから。
―――― だって、オレも怒ってるからね。
にっこりとした笑みをオレは浮かべた。うんもう満面笑顔。これでもかってぐらいの笑顔。
多分、ちゃんと笑えてると思うんだけど、目が合ったハクレン爺の顔がちょっと引き攣ったあたり、その判断はちょっと微妙。
翻った、少し長めの黒い髪。あの色彩が好きだった。
名前は呼べなかった。だってホントにビックリして、思考が真っ白になったから。
セレ ―――― セレナイト。
フィルの片割れで、大事なもうひとり。
名前は、呼べなかった。
躊躇いもなく向けられた背中に呆然としてしまったのは、本当にちょっと前の出来事。
あーオレすんごい怒ってるなー、と自覚したのも久しぶりだ。ものすごく久しぶりだ。
基本的にオレの怒りの沸点は高いというか変なところにあるらしく、滅多なことでは臨界点も突破しない。いや普通怒るトコだろ、ってポイントをどうもスルーしちゃうらしいんだよね。鈍いと言われればそれまでだけど。
そのオレが、だ。
間違いなく本気で怒っていることを理解したらしいフィルが、それまでの剣呑なオーラを収めてオレを見た。ちょっとビックリしたみたいな視線を貰ったけど、それについては今は気にしないことにしよう。
頭の中が冷えていく感覚。
最初はさ、何で、って思った。その言葉がぐるぐる頭の中を回ってた。
で、今。それよりは少しだけ冷静になって、考えて辿り着いた結論。
“晶石”―――― セレの石をハクレン爺に預けた、って言ったのは、フィル。
ここにセレの石はないと言ったのは、ハクレン爺。
セレは、インテリメガネの命に従って、オレに背を向けた。
それが、何を意味するのか。
「セレの石 ―――― 持ってるのはあの男?」
にっこり笑顔のまま問えば、僅かな沈黙をおいてこくりと首肯が返った。
「あやつの名はセネト・フリューゲル。かつて儂の弟子だった男じゃ」
「……うわぁ。何かその切り出しだけでおおよその事情が読めたカンジ」
渋るシロちゃんを退出させて、ともかく事情を話せと詰め寄ったところ、ハクレン爺はおもむろにそう話始めた。かつての弟子、って……過去形なのか。判りやすい。
オレの隣でこちらも呆れたような眼差しになってるフィルをあっさりと受け流し、ハクレン爺は更に言葉を続けた。
「ひねりがなくてスマンが、強大な力を求めておったその阿呆な弟子が、闇の王の石を手にしたのがそもそもの発端じゃて」
「うっわぁ……」
誰も捻れとは言ってないけど、こうまで予想しやすい経緯を持ってこられると、もう何というかうわぁ……。
今もまだ怒ってることは怒ってるんだけど、何かもうここまでくると呆れの方が勝ってきた。力抜けるなぁ。
そんなオレの様子にいち早く気付いたらしいフィルが、隣で小さく息を漏らした。それは間違いなく安堵のため息だったので、オレは大丈夫だよ、と声をかける代わりにフィルの頭を軽く二・三回撫でておいた。ぶっちゃけ座ってるからこそできる芸当です。フツーに立ってる状態のフィルの頭にはオレの身長じゃそれこそ文字通り手も届きません。……気付かなきゃ良かった事実を再確認。
「アレはあの“晶石”が王の石だということを知って使っているのか?」
「いいや、そんな自覚はなかろうよ。儂が黙っておったというのもあるが、己の手にしておる石が闇の王のものだと判ればいっぺんに臆すぐらいの小物ぶりじゃからの」
フィルの問いに、ハクレン爺はあっさりと首を振って実に容赦なく相手を扱き下ろした。…………何か覚えがあるな、コレ。その辺の容赦のなさは三十年経っても治らなかったか。
しれっと毒吐くの得意だったもんなぁ……。丁寧な言葉遣いに騙されるひとも多かったけど、慇懃無礼って言葉がホントピッタリ……って、アレ? この感想ちょっと前にも思わなかったか?
これアレじゃない? その資質弟子に間違いなく受け継がれてるとか、そういう……? 年季がある分ハクレン爺の方が上だけどさぁ。…………うん。考えなかったことにしよう。
「でー? 力を求めるにあたって、ハクレン爺に預けてたセレの石を持ち逃げしたのがアイツ?」
「うむ。眠りについているとはいえ闇の王の石じゃ。他とは格段に違う力を秘めとるのは阿呆にでも判る。強き力を求めておったアレが目を付けるのも無理はなかろうて」
「それはいいんだけどさ……いや、よくないけど。何でみすみすセレの石持ってかれてるの、ハクレン爺。らしくもない」
やられたことには三倍返しをモットーに、っつか、そもそも出し抜かれるような隙を見せる可愛げもなかったような? と首を傾げれば、ハクレン爺が笑った。苦い笑い方だった。
「油断しとった感は否めん。あれでも儂の弟子だった奴じゃ、良心を信じたかったというのもある。――――― 何より儂も老いた。三十年は、思うよりも長い」
実感のこもった声。
オレにはまるで伴わない実感。それが“三十年”といった年月。
実際問題、目の前のハクレン爺は年を取ったなぁ、と思う。髪の毛は白いものの方が多くなってるし、手や顔に深く刻まれた皺も昔はなかったものだ。
“三十年”。
言葉にしてしまえば、たったそれだけなのに。……ホントにそんだけ経ってるんだよなぁ。
オレは口を閉じて傍らのフィルを見上げた。……あぁ、案の定情けないカオになってるしー。傍目にはものっそ無表情なまんまだけど! ああ落ち込むな落ち込むな!
ああもう、お前のせいじゃないってば。三十年、それだけの間オレが寝てたのは事実だけど、それはオレのせいであってお前達のせいじゃないんだよ。何回もそう言ってるのにな。
ポンポンと、ヒヨコ色の頭を再び撫でていたら、ハクレン爺が小さなため息と共に言った。
「若作りのお前さんには判らんかもしれんがの」
すんごい聞き捨てならないことを。
「若づく…っ!? いやいや何それ!」
作ってない! ていうか何だそれ!
「使い魔がそのままの姿なのはいいとして、何もお前さんまで三十年前の姿そのままで戻ってくることはなかろうに。さすが“歩く非常識”じゃの」
「うぇ!? 何その不名誉極まりない呼び名っ?」
「……学院にいた頃に、お前についていた通り名、だな」
「えっ!? 何でフィル知ってんの!?」
「俺としては、お前がそれを知らないことの方が疑問だが」
「ええええぇぇ!?」
え何その一般常識みたいな語られ方。
「―― ところで」
「うん?」
「お前さんは三十年、どこで何をしとったんじゃ?」
直球な問いだった。ストレートにそれを訊かれたのは初めてだなぁ、そういえば。
えーっと……何してた、って……、
「…………寝てた?」
しかも水の中で。
「…………」
ちょっと。正直に言っただけなのに、何で黙りますかそこ。しかも何で深々とため息とか吐いてくれますかそこ。
それ失礼! すんごいオレに失礼だよ、ハクレン爺!
「さすが……期待を裏切らんの。歩く非常識め」
え、それ納得されてんの? 感心されてんの? 馬鹿にされてんの? ……って、どれにしたって更に失礼だそれはーっ!
そりゃね! 目が覚めた時にオレもぶっちゃけありえない、とか思ったけどね!? ……自分で思うのと他人に言われるのじゃ重みが違うんだい、畜生。
それにさ、寝てた、って言ってもそんな普通にぐーすか寝てたわけでもないし!
「“光の洞” ―――― ラズが寝ていたのは、そこだ」
俺がそこに寝かせた、と淡々とフィルが言った。ハクレン爺が驚いたように目を瞠ってオレを振り向く。
あー、そう。それそれ、“光の洞”。一番最初に、目を覚ました場所。
っても、その時はそりゃもうきれいさっぱりと記憶を落っことしてたから、全然気付かなかったんだけどね。きらきらぴかぴかの水晶製地底湖みたいな場所。
あれを、オレは知ってる。あれはフィルが作り出した空間 ―――― 通称“光の洞”と呼んでる場所だ。
セレなんかはあそこを『治療ベッド』とか何とか呼んでたけど。まぁ、使用目的を考えれば間違いってわけでもない。
だって、あそこは……。
「怪我の度合いから言えば、セレの方が酷かったが。―――― 人間であるラズの方が、死により近いところにいた」
だからあそこにラズを寝かせた、というフィルの声は、やっぱり淡々としてたけど。
……思い出させちゃったかな。何か辛そうなカオしてるぞ、お前。
俯いたフィルの頭をポンポンと撫でながら、驚いた表情でこっちを見てるハクレン爺にちょっとだけ笑いかけた。
“光の洞”。
そこは、簡単に言えば怪我を癒すことのできる場所。
魔法を使うよりも、確実に ―――― 十割じゃないけど、命に関わるような怪我でも上手くすれば治せる。
その“光の洞”に寝かされたという事実から、判ることがひとつ。
あの、日。
大崩壊の、終わった日。
あの時、どうやらオレは死に掛けていたらしい。
* * * * * * * *
パチン、と。
何か、弾けたおとが、した。
一面の、暗闇。
周囲は、闇に閉ざされてた。
暗いのは別に苦手ってワケでもないけど、こうまで暗いとさすがに気が滅入る。ていうか、ぶっちゃけ眠くなります。夜は寝る時間ー……、みたいな。
身体から力が抜けて、ぺたりとその場に座り込んだ。倒れ込まなかったのは、オレにしては上出来。フツーにこういう状況でも顔面ダイブとかやるもんね、オレ。今のでちょっと膝は打ったけど、そんなのはちっちゃいちっちゃい。
それに、もう身体中どこがどう痛いのかも判んないから、膝の痛みなんて全然気にならなかった。
あー……、うん。
頑張りすぎた。動けない。
ぱしゃん、と水音がすぐ近くでした。
のろのろと首を動かして音がした方を見やると、何かビミョーに黒い影が動いてるのが見えた。
んー……? 黒い影、っていうか……。
「―― セレ?」
影が、揺れた。
……あぁ、アタリ、だ。
「……ラズ? そこに、いるの?」
「うん。いるよー」
聴こえてきた声に、ひらひらと手を振り返す。……って、見えないか。
暗闇に少しは目が慣れてきたとはいえ、周囲は相変わらず真っ暗だ。何がどうなってるのかなんて、全然判らない。
さてどうしたものか、と思ったところで、ぱしゃん、ぱしゃん、と水音が連続して響いているのに気付いた。あー、声を頼りに歩いて来てるのか。
「セレー。ゆっくり来いよ。転ぶぞー?」
その辺の岩に適当に背を預けながら言えば、セレが小さく笑った気配がした。
「転ばないよ。ラズじゃないんだから」
「う……、我が事ながら言い返せない」
どうせ転びますよー。この状況だと間違いなく転びますよ。……事実だけどねっ。
ぱしゃん、とすぐ近くで水音。顔を上げれば、そこにいたのは思ったとおりセレで。
あー、セレだ。さすがにこれだけ近くにいると顔の判別もつくよなー……ってか、近すぎじゃない?
至近距離。どアップ。目の前のセレの顔が、安心したようにへにゃりと笑んだ。
「あー、良かったー。ちゃんとラズだー」
「うん? それどういう意味ーってか重い重い重い!」
ぎゃーっ! 全体重掛けるなーっ!
じたばたするも、体力が足りずに結局されるがままになってしまった。くそぅ、そもそもの体格が違いすぎるんだっての。
抵抗を止めれば、そのままぎゅうと抱き締められた。少し低めのセレの体温。首筋に当たる髪の毛が少しくすぐったい。
「あーもー、重いってのに。どけろってば」
「んー、無理ーぃ。ちょっと頑張りすぎて体力空っぽなの。俺」
「さっきここまで歩いて来た奴が何を言うか。―――― まぁ、ホント頑張ってたけどさ、お前」
「でしょー? 何というか、ありえないぐらいに頑張ったよ、俺」
「ありえないて、お前……」
その言い方はどうだ。何気なく普段のお前が偲ばれるカンジのセリフだぞ、それ。
けど、かなり頑張ってくれたのも事実なので、肩に乗っかってるセレの頭をよしよしと撫でておいた。……気持ち良さそうに擦り寄られた。
猫みたいだなー、お前。図体でかいけど。
「ていうか、外どうなってんだろ……?」
「さぁ……? ここにいると全然判んないねー」
「だよね。ここ暗すぎ。んで、静か過ぎ」
シン、と静まり返った暗闇。
時折水音が響くだけで、さっきまでの騒ぎが嘘のようだ。
激しい風の音も、何かが崩れ落ちる音も ―――― 誰かの悲鳴も、もう聴こえない。
「他に誰かいないのか? ここ」
「うーん、人の気配はしないねぇ……。―― フィルの方はどうなったかなー?」
「さぁ? ここからじゃ判んないけどさ、まぁうまいことやってくれてると思うよ。その辺は信用してるし」
フィルはできないことはできない、ってはっきりと口にする。逆に、できるって断言したことなら、ホントに成し遂げる。
絶対に、フィルはその判断を間違えない。
今回、フィルは「できる」って言った。
だから、あんまりその辺の心配はしてない。
そう言ったら、セレが「そだねー」と小さく笑んだ気配がした。
……むしろオレ達の今の状況の方が、大変で心配なカンジだよね、実際。
「てか、これからどうしよっか? いつまでもこうしてるわけにもいかないし、外とか目指してみる?」
「そうだねぇ……。あー、でも俺無理ーぃ。さっきも言ったけど、体力ないの今。空っぽだよー、フィル来るの待ってようよー?」 「こらこらこらこら……って、何だこの体勢。膝枕?
膝枕なの? お前オレに膝枕されて嬉しいのかセレ」
「嬉しい嬉しくないで言ったら、普通に嬉しいかなーぁ? いいカンジに寝れそう」
「待て待て待て。寝るなこら!」
「だって俺眠いー」
「だから待てってば! オレだって眠いわ馬鹿ーっ」
セレはオレの膝の上にこてん、と頭を預けて、気持ち良さそうに目を細めた。
ちょっと待て。そこでくつろぐなよお前! えホントに何この微妙な体勢。本気で膝枕だよ!?
「ごめんねー? でもホントに眠いんだー、俺。……こんなに眠いの、初めてっていうぐらいに」
「……あー、もぉ。そーゆーカオされたらオレが折れるしかないじゃん。もー好きなようにして」
「うん、するー。ありがと、ラズ」
へにゃりとセレが笑った。……ホントに眠そうだな、お前。
ていうかオレも眠いんだけどさ。頭がぐらぐらするー……。何だろ、コレ。
眠気を誤魔化すようにふるふると首を振った瞬間、不意にずしり、と膝に重みが増した。うわー、足が痺れそうだコレ。
「まぁ……、オレもお前にありがとう、だよな。やっぱ……」
ポツリと呟いて、オレはセレの真っ黒な髪を梳いた。
暗闇よりもまだ黒い色彩。この闇の色は、何だかやさしい。
所々で、ごわつく砂の感触がした。もったいないなぁ……いつもはもっと手触りいいのに、なんて、そんなことを思う。
膝の上、セレは瞳を閉じている。
「いっぱい……ホントに頑張ってくれたし」
多分、オレ一人の力じゃ無理だった。ううん、多分ていうか、絶対。
“大崩壊” あれはきっと、オレ一人の力じゃ止められなかった。
フィルとセレがいてくれたから、初めてできたこと。
「セレも……フィルも、ありがと。―――― 大好きだ」
二人がいてくれたこと。これって、結構すごいことだ。
素直に、ありがとうって思う。
ありがとう。大好きだ。―――― 全部、ホントだよ。
「うーん……、やっぱ後でちゃんとフィルにも言うべきだよねー?」
どう思う? と首を傾げながらセレに問い掛けたけど、答えはなかった。
「セレー?」
名前を呼ぶ。けど、応えはない。
「……寝ちゃったのか」
眠い、って言ってたもんな。この体勢で寝るのはどうかと思うけど。
頑張った、っていうよりは、いっそ無茶させたよな。うん。
「そりゃ疲れたよな。……ごめんな」
もう一度、するりとセレの髪を梳いた。
指に絡み付くのは、砂と ―――― 固まりかけた、血の感触。
血の臭いが、濃くなった。
……うん、ごめんな。無茶させた。無理なお願い、いっぱいした。
疲れちゃったよな。ごめんな。―――― ありがとう。大好きだよ。
「おやすみ、セレ」
もう大丈夫。終わったんだ。
崩壊の音は、もう聴こえない。ここはこんな暗闇だけど、外はきっと明るくなってる。
ごちゃごちゃに雑ざりあってた空の色、あれも今は、きっともう元に戻ってる。
「……オレもちょっと、疲れた、なぁ……」
ずるり、と岩に預けてた背中が滑った。
何だかもう、指一本動かすのも面倒。二人ほどじゃないけど、オレも結構無茶したし……、うん。ちょっと、疲れた。
「オレも、眠っていいかなぁ……?」
いいかな? ―――― いいよね?
もう……終わったんだから。
無茶したけど ―――― 無茶、させたけど。
できることは、全部やったと思うから。
フィル、ごめん。
待ってよう、って思ったけど、何かちょっと無理っぽい。ごめん。オレもここで寝る。ダメ。どうしても眠い。
ぱたり、と手が地面に落ちた。ぱしゃん、と水音。
ゆっくりと瞳を閉ざす。
瞼の裏に揺れた暗闇は、何故だかひどくやさしかった。